いじめ問題に対する埼玉県としての具体的対応

質問 中川 浩

 中高生におけるいじめはもはやいじめではなく、その多くは犯罪として扱わなければならないものが多くあります。いじめ増大の根底にあるのは、道徳心の衰退と考えるよりほかありません。そのためには、小学校低学年からいじめは卑劣で悪質な行為であり、どんな理由があっても決して認められないという教師の強い姿勢による教育の徹底が大切です。その徹底こそがいじめの減少、または根絶につながると考えます。
 しかし、現在の学校には、勉強についていけない等の児童生徒に対して、いじめが心配という理由で特別支援学級への移動を勧める事例が多くあるようですが、これはいじめがあることを前提に学校教育が進められており、被害者よりも加害者を擁護する形になっています。また、これが差別やいじめを更に助長する原因にもなっているのではないかと思えて仕方ありません。弱い者いじめはいけないと言いながら弱い者を排除する現実を目の当たりにしていては、正しい道徳心が養えないのも無理はありません。
 県内のある中学校では、いじめが原因で生徒が現在意識不明の重体になっており、私たちは何らかの具体的なアクションを起こさなければ、このようなことはまた起こると思います。
 埼玉県内では、最近6年間で中学生、高校生の自殺者が37人出ております。私はこの現実への直視が弱いと思います。また、私は中学生の主な自殺理由はいじめだと推察いたします。平成18年度にもいじめによる自殺は大きく報道され、その年度はいじめた側の生徒の別室指導の件数が516件と高かったのですが、その後減っていき、昨年度は234件になっています。これは仕組みが弱い現れだと思います。
 いじめ等の加害児童生徒の出席停止処分は保護者の同意がないとしづらく、対話できない保護者の児童生徒には難しい現状にあるように感じます。しかし、今後、悪質ないじめの事例に関しては、加害児童生徒の別室指導、出席停止等の対応の更なる強化や、加害児童生徒に反省が見られない場合、その保護者は一定期間学校長などと定期的な面談を行わねばならない等の条例、指導方針を作成し、埼玉県から未成年の自殺者、犯罪者を生まないための新たな仕組みを構築し、教育の中で徹底したいじめ撲滅を目指していただきたいと思います。
 知事、教育長のお考えをお聞かせください。


答弁者:上田きよし県知事

ご提案の学校と加害児童生徒の保護者が、定期的かつ密に連絡を取り合うということは、重要なことだというふうに思います。
 ただこれを条例だとか義務化という話になってくると、子供の将来への影響だとか、そして保護者の精神的な負担を考えると少し慎重に考えたほうがいいのではないかと私は思います。 
 いじめの問題は、まずは現場で基本に立ち返った取り組みといったものが重要だと思っております。
 基本は子供たちが過ごす舞台である学校、教育のプロ集団として思いやりを持って、時には厳しく子供たちを指導する、そういう教師の使命感が基本にはあるべきだと思います。
 ただ、担任の先生を中心として子供たちや保護者との信頼関係を築くことは当然のことでもありますが、中には少しスーパーマン的な力を持っていない人もいますので、一人の教師で全部抱え込むのではなくて、学校全体でカバーができるような仕組みを学校の中で作っていくということが一番大事だと思います。
 担任にも強弱いろいろあると思いますので、そこの部分が校長の指導力だというふうに思います。
 その上で、いじめ問題を学校だけで片付けるのではなく、社会全体の繁栄が子供たちの中に出てきているものだと。社会全体の病理現象だと、私はそんなふうに思っていますので、関係する人たちが全体として環境整備に取り組まなくてはというふうに思っています。
 この全体という部分をどう捉えるかということについては一つ一つこなしていくしかないなというふうに思っております。
 例えば経済困窮がゆえに、課題が出てきているところは全体として日本の経済再生そのものを強くしていくというようなことが必要だというふうに思われますし、もし、犯罪だという形になっていくのであれば県警の踏み込みというものがもう一つ必要になってくるかもしれませんし、あるいは、地域にいろいろな意味での取り組みが薄いのであれば、まずは防犯なら防犯という活動からもですね、地域の取り組みをはじめるとか、そういう中で、地域の力を強くしていって全体としての関係を強くするとか、そういうものを一つ一つこなす以外、決定的なものはないのではないかというふうに思いますので、条例、あるいは義務化というご提案でありますが、どちらかと言えばそれ一本でなかなか片が付かないのではないかということで、慎重に対応したいと思います。


答弁者:前島富雄 教育長

いじめは卑怯な行為であり、どういう理由があっても絶対許されないことであります。
 私も子供たちの一番身近にいる教員が、「いじめは絶対に許さない」「先生たちは、皆さんを絶対に守り抜きます」という力強いメッセージを言葉と態度ではっきり子供に示すよう、あらゆる機会を捉えて話してきました。
 いじめを根絶するには、子供たちに他人の気持ちを思いやる心や生命(いのち)を大切にする心、ダメなことはダメという規範意識を醸成することが何より重要です。
 そこで、県教育委員会では、生命や規範意識を大切にする心などを身に付けるため、独自の道徳教材「彩の国の道徳」や「家庭用 彩の国の道徳」を作成し、その積極的な活用を図っております。
 お話しの、特別支援学級への移動につきましては、児童生徒の障害の状態などを適切に把握し、保護者や専門家の意見を十分に聴取した上で、慎重に対応することが必要であります。
 加害児童生徒の保護者に一定期間学校長などとの面談を課すなどの条例・指導方針の作成についてでございますが、子供の教育について第一義的責任を有する保護者には、その役割を果たしていただくよう、各学校で粘り強く関わっていくことが基本だと考えます。
 また、保護者と学校の信頼関係を築いていくため、各学校がいじめの対応方針や指導計画を公表し、保護者に周知するよう市町村教育委員会や学校に求めているところでございます。
 各学校では、いじめの加害児童生徒に反省が見られない場合、まず自分の行為が卑怯で悪い行為だと自覚させる必要があることから、粘り強く繰り返し別室における指導などを行っております。
 また、加害児童生徒の保護者に対しては、事態の深刻さを理解してもらうため、面談により速やかにいじめの事実を知らせ、学校の取り組み方針を伝えています。
 そして、被害を受けた児童生徒やその保護者に対して謝罪を行うことや加害児童生徒に対して家庭でしっかり教育することを求めています。
 県教育委員会としては、悪質ないじめの事例で、指導してもいじめを繰り返す場合は、市町村教育委員会において、出席停止の措置をとることをためらわずに検討するよう通知しております。
 さらに、犯罪行為の可能性がある場合には、早期に警察に相談し、警察と連携した対応を取るよう指導しております。
 一番大切なことは、教員が本気になって子供・保護者に関わっていくことであります。
 障害のある児童生徒に係るいじめなどの諸問題には、周囲の理解と支援が重要であり、生徒指導上十分な配慮に努めてまいります。
 学校は子供たちが明るく安心して学べる場でなくてはなりません。
 今後とも、市町村教育委員会や学校と連携しながらいじめの撲滅を目指し、全力で取り組んでまいります。